「契約書ひな形」見直しの視点
小松淳一
契約書ひな形は,企業活動において重要な実務ツールとして位置づけられる一方,ひな形の内容に影響を与える重要な問題が生じても,あくまで個別案件への対応にとどまり,ひな形の全面的な見直しにまでは至らないケースも散見される。
売買契約・取引基本契約
――譲渡担保法と「型」取引
松尾博憲・北口智章
本稿では,売買契約・取引基本契約の見直しに関して,第1に,2025年5月に成立した譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律(令和7年法律第56号。以下「譲渡担保法」という)において所有権留保について明文の規定が整備されたことをふまえ,契約実務上の留意点を検討する。また,第2に,特に製造委託を伴う継続的取引に関して,「型」の保管による製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(昭和31年法律第120号。以下「取適法」という)違反の問題に関する近時の動向を取り上げ,契約実務上の留意点を検討する。
業務委託契約書
――取適法(旧下請法)・フリーランス法の要点
山本一生・永野寛英
本稿では,業務委託契約につき,「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(取適法)および「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(フリーランス法)等,昨今の法改正・制定の動向をふまえながら,見直しの要否を検討すべきと思われる最低限のポイントを解説する。
労働契約
――賃金・労働条件・退職に関するポイント
富田直由
労働契約のうち,賃金に関する内容,従前の労働条件の変更,退職後にも存続する義務の設定については,従業員の関心が高い事項となる。これらの点について,取扱いに不明確な点が生じた場合,労使間で紛争になりやすい。労使間での紛争をあらかじめ防止するという観点から,就業規則,雇用契約書・労働条件通知書,その他誓約書等にて,いかなる定めを設けるべきであろうか。以下では,実務上問題となりやすい事項についてそれぞれ解説する。
建物賃貸借契約書
――紛争に至りやすい条項を中心に
大久保由美・堀内信宏
本稿では,当事者間で特に紛争に至りやすい条項を中心として,建物賃貸借契約書の見直しを行う際の着眼点について説明する。
建設工事請負契約書
――「標準約款」改正への対応
川上善行
2025年12月の改正建設業法の全面施行に伴い,各種の関連約款も改正された。こ れらの約款の改正等をふまえ,自社の建設工事請負契約書のひな形等についても見直しを検討すべきタイミングといえる。そこで,請負代金等の変更協議に関する規定など,見直しを検討すべき主な事項を紹介する。
ライセンス契約
――改良発明・非侵害保証および補償・実施料
高瀬亜富・稲垣紀穂
本稿では,特許ライセンス契約の条項のうち,主として①改良発明の取扱いに関する条項,②非侵害保証および補償に関する条項ならびに③実施料の不返還に関する条項の3つの条項に焦点をあてて解説する。また,④その他の条項についても,頭にとどめておくことが望ましいと思われるものに絞って,末尾でまとめて紹介する。
生成AIと連携したサービスの利用規約
――提供者の責任・出力結果の著作権・禁止事項の見直しなど
前野孝太朗
ITサービスにおいて,生成AIを利用した機能(以下「AI機能」という)が追加されることはめずらしくない。しかし,AI機能を想定した利用規約の解説はいまだ少ないように思われる。そこで,本稿ではAI機能にフォーカスして,利用規約の見直しのポイントを検討する。
新リース会計基準とリース契約書への影響
原田伸彦
昨今の国際会計基準に鑑みて改正された「新リース会計基準」は,2027年4月1日以後開始する会計年度から適用される。オペレーティング・リース取引のオンバランス処理化など,実務的に大きなインパクトのある新リース会計基準の適用開始まであと1年と迫ったことから,新リース会計基準の内容を概観するとともに,法務面,特にリース契約書への影響の有無について検討してみることとする。
研究者と裁判官
宇賀克也
私は,約41年間,大学で行政法の研究教育に携わってきた。その後,6年4カ月にわたり,最高裁判事を務めた。最高裁判事を退任した後,よく受ける質問が,研究者とキャリア裁判官との相違を認識したことがあるかというものである。1つだけ挙げれば,判例に対する認識の相違があるように思われる。
子どもの個人情報保護
――グローバル動向と日本の現状
古田俊文
子どもの個人情報保護は,近年のデジタル規制における最も大きなトレンドの1つである。
各国では,年齢確認,ターゲティング広告の制限,有害コンテンツ規制との連携を軸とした法整備が急速に進んでいる。他方で,わが国では,子どもの個人情報の保護に関する特別の規制を設けることが検討され始めたばかりであり,今後の動向を注視する必要がある。
岡芹健夫
巷間,「同一労働同一賃金」という言葉を耳にした方は多いであろう。今回はその「同一労働同一賃金」をめぐる法令のすう勢について,若干,解説することとしたい。
野田 学
近時,下請法は大きく改正され,取適法として生まれ変わり,企業は実務上の対応を余儀なくされている。これと並行して,同法の執行(勧告・指導)のあり方にも近年大きな変化が生じている。本稿は,近時の公取委の取適法に関する勧告・指導事例を分析したうえで,日々の法律実務においてポイントとなる対応について検討を試みるものである。
4月施行 排出量取引制度と企業への影響
北島隆次
2026年4月1日から改正GX推進法が施行され,排出量取引制度が日本でも本格的に開始されることになった。本制度は日本の脱炭素と経済成長の両立を目指す「成長志向型カーボンプライシング構想」の一環でなされるものである。同制度導入により,排出量についての第三者機関の確認業務,排出枠を償却できない事業者への負担金支払い等のサンクションも定められているため,注意が必要である。
概説 情報流通プラットフォーム対処法
飯田匡一
プロバイダ責任制限法は2024年に一部改正されたところ,法律の略称が情報流通プラットフォーム対処法に改められ2025年4月1日に施行された。本法は①プラットフォーム事業者等の免責要件,②発信者情報の開示等について規定していたが,本改正により③大規模プラットフォーム事業者等に対して対応の迅速化および運用状況の透明化に係る措置を義務づける規定が追加された。③の運用状況公表時期が近づく今,本法全体を概説する。
「経済安全保障と独占禁止法に関する事例集」の要点
池田陽子・杉江一浩・川渕英雄・髙木美香・吉田正則
安全保障環境が複雑化するなか,2025年,公正取引委員会,経済産業省,国土交通省が公表した「経済安全保障と独占禁止法に関する事例集」について,対象となる企業間連携や分野のイメージ,また特に代表的な事例を中心に解説する。
中間試案をふまえた 成年後見制度の見直しの概要
松原大知
成年後見制度は,導入25年を経て「保護」から「意思決定支援」への転換点を迎えている。2025年の中間試案では,制度の硬直性を打破し,必要な期間のみ利用できる「出口」の創設や類型の柔軟化が打ち出された。本稿では,実務に大きな変化をもたらす中間試案を分析し,専門職が直面する新たな責務と実務への影響を詳説する。
「パワハラ非該当通知」実施における3Stepフィードバック術
石田竜也
パワハラ調査の結果,パワハラ非該当と判断した際の報告は,対応を誤れば深刻な紛争を招く実務上の難所である。本稿では,報告の目的を単なる「判断」から「組織改善」へ転換し,事実関係(背景)の共有・判断基準の提示および思考プロセスの開示・改善に向けた対話へつなげる「3Stepフィードバック術」を詳説し,申告者とともに職場の正常化を目指すための手法を提案する。
石田雅彦・川口舞桂・森田尊伸
<米国> 会社の実質的所有者の開示に関する近時の動向
近年米国において,会社の実質的所有者(benefi cial owner)の情報の開示を強化する動きが強まっている。
<ベトナム>公開会社への投資を促進する証券法改正
2026年1月1日付で,ベトナムの改正証券法(法律第56/2024/QH15号)が全面施行された。本改正の趣旨は,外国投資家による投資に対する規制緩和を行う一方,ベトナム国内のコーポレート・ガバナンスや金融市場に関連する規制強化を行うことで,ベトナム国内の資本市場の流動性や信頼の向上を図り,外国資本の流入の促進を目指すというものである。
【新連載】
AI時代のコーポレート変革
第1回 AIを入れたのに,なぜ使えないのか
淵邊善彦・照山浩由
生成AIの登場から数年。日本企業の多くは第一フェーズである「導入」を終えた。社内規程は整備され,セキュリティ対策が施された環境で社員にIDが付与され,利用研修も一通り行われた。形式上,準備は万端に整ったはずだ。しかし現場から聞こえるのは,なんとなく怖いから使っていない,業務で使ってミスをしたら怒られそう,実はこっそり個人のスマホでやっているといった戸惑いと萎縮,そして拒絶の声である。なぜ,整えたはずの規程が機能しないのか。なぜ,法務がリスクをふさげばふさぐほど,現場は地下に潜るのか。
本連載では,AIガバナンスや企業法務に詳しい淵邊善彦弁護士と,数々の企業でAI実装の現場を指揮してきた照山浩由氏(株式会社コーポレートGPT 代表取締役CEO)を迎え,AI時代の組織設計を議論する。第1回では,多くの法務・コーポレート担当者が抱える「違和感」の正体に迫る。そこには,技術論や法解釈論以前の,より根深い「組織と判断の病」が潜んでいた。
【新連載】
法務担当者のための著作権入門
第1回 その契約書に著作権はあるか
竹内 亮
デジタル化,SNSの普及に生成AIの発展が加わり,企業の著作権のリスクはますます高まっている。たとえば,広報資料,キャラクターや商品デザイン,ウェブコンテンツ,社内研修資料などについて法務担当者に相談が持ち込まれることがある。しかし,著作権法は複雑で,実務での判断に迷うケースが少なくない。「これは引用として認められるか」「外注デザインの権利は誰に帰属するのか」「SNS投稿のリスクは」といった疑問に答える必要があるが,本連載では,このようなビジネスの現場で頻出する問題を解説する。
LEGAL HEADLINES
森・濱田松本法律事務所外国法共同事業編
2025年12月、2026年1月の法務ニュースを掲載。
■ISSB,人的資本分野の開示に関する調査結果を公表
■公取委,「運送事業者間の取引における下請法違反被疑事件の集中調査の結果について」の公表
■東証,「親子上場等に関する事例集」を公表
■金融庁,金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」報告を公表
■金融庁,金融審議会「市場制度ワーキング・グループ」報告を公表
■金融法委員会,「新株予約権への上限金利規制の適用関係に関する検討~ベンチャーデット/スタートアップ向け融資を念頭に置きながら~」を公表
■経産省,「サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度に関する制度構築方針(案)」を公表
■令和8年度税制改正の大綱の閣議決定
■中国が対日輸出規制を強化
■文化審議会著作権分科会政策小委員会,「レコード演奏・伝達権」の創設等に関する報告書案の意見募集を開始
■労働政策審議会,労災保険制度の見直しについての検討結果を建議
■米国,半導体関税を導入
■法務省,「商業登記規則等の一部を改正する省令案」に関する意見募集の結果を公表
■消費者庁,「デジタル取引・特定商取引法等検討会」を開始
最新判例アンテナ
第93回 旅客機の客室乗務員について,運航中のいわゆるクルーレスト等が労働基準法施行規則32条2項における休憩時間に代わる「その他の時間」に含まれないと判断された事例(東京地判令7.4.22労経速2596号3頁)
三笘 裕・江坂仁志
Xらは,航空運送事業を営むY社と雇用契約を締結し,客室乗務員として勤務していた。
Xらは,Y社から,労働基準法(以下「法」という)34条1項に定める休憩時間が付与されない勤務を命じられ,当該勤務に従事したことにより精神的苦痛を受けたとして,同社に対し,安全配慮義務違反を理由とした債務不履行または不法行為に基づく損害賠償請求等を求め,本件訴訟を提起した。
法務担当者のための独占禁止法"有事対応"ガイド
最終回 独禁法違反行為の被害申告対応
神村泰輝
本連載の最終回となる今回は,他社の独禁法違反行為による被害を受けた場合の対応を取り扱う。企業においては,他社の違反行為により自社が競争上の不利益を被る局面も決して少なくなく,このような場面もまた,企業にとって重大な「有事」である。被害への対応手段としては,大きく分けて公取委への申告(法45条1項)と,民事訴訟(差止請求・損害賠償請求)が存在するところ,本稿では公取委への申告を中心に,その概要と判断ポイントを解説する。
法と人類学―法がつくられるとき―
第9回 誰が裁量を持つべきか?
原口侑子
ザンビアでは地域ごとに,地方裁判所(Subordinate Court),高等裁判所,最高裁の3審制の下に,慣習法裁判所と簡易裁判所の役割をあわせて担うLocal Courtが配置されています。Local Courtの管轄は法令で定められ,権限を奪われたり付与されたりしています。
商業登記実務基本マスター
第4回 株式会社の登記事項等
鈴木龍介・真下幸宏・川岸俊介
株式会社の登記事項については,会社法911条3項に列挙されており,必ず登記を要する事項と,定款等で定めた場合に限り登記する事項に大別される。また,登記事項のほか登記簿に記載される事項があり,企業調査等で登記簿を活用する際には,それらの内容と意義についても正確に理解することが求められる。
連載第4回では,株式会社の登記事項と定款記載事項を整理したうえで,登記が必要となる場面と主要な登記事項に関する実務上のポイントについて取り上げることとする。
事例でわかる「AI活用」ことはじめ
第4回 議事録作成・文書要約
坂 昌樹・山田健介
企業における会議の議事録作成や大量文書の要約は,組織の意思決定プロセスの記録と情報共有において不可欠な業務である。従来,これらの作業は多大な時間と労力を要する人手中心の業務だったが,AI技術の進化により,効率的かつ正確な処理が可能となってきた。本稿では,議事録作成・文書要約におけるAI活用の方法と,実務上留意すべき法的課題について解説する。
企業法務のための外為法入門
第5回 貿易管理①
大川信太郎
本連載の第5回・第6回では,法第6章(外国貿易)に関する規制のうち貨物の輸出に関する許可制およびそれに対をなす法第4章(資本取引等)に関する規制のうち技術の輸出等に関する許可制ならびにそれらに関連する規制(具体的には,法第6章の2(報告等)のうち官民対話スキームおよび法第6章の3(輸出者等遵守基準)に関する規制)について解説する。
基礎の基礎から始める要件事実・事実認定の徹底的入門
第6回 第5章 裁判規範としての民法説による立証責任対象事実(要件事実)の決定基準について(第4節)
伊藤滋夫
立証責任対象事実は,訴訟当事者に,公平に分担されるべきものであります(前述第1節)が,分担という以上,その事実は分けることができる(可分な)ものでなければならず,その可分という意味が,法的に可分という場合が特に問題でした(前述第2節)。そして,そのように法的に可分か不可分かということを考えるために検討するという作業の性質は,法律解釈学の性質を有するものであり,解釈の手法としては,「立法者意思による解釈」という手法によるものでした(前述第3節)。