雑誌詳細

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2019年9月号

2019年7月21日発売号   1,609 円(税込)

特集1

会社・社員を守る
"パワハラ"への法務対応

特集2

課徴金制度が大きく変わる
改正独占禁止法への準備

特集1
会社・社員を守る
"パワハラ"への法務対応
6月26日に閉会した第198回通常国会にて、企業に対しパワーハラスメントの防止措置を義務づける法律が成立しました。働く人の人権と意欲を保ち、人材流出を防ぐため、パワハラをなくすことはもちろん必要ですが、現場からは「業務指導との線引きがわからない」、「管理職が萎縮してしまう」との戸惑いの声も聞かれます。本特集では、今般成立した法律と過去の裁判例を基に「パワハラとは何か」を明らかにし、「会社・社員」の双方を守る適切な法務対応のあり方を探ります。
労働法

該当性判断の基準と企業の防止義務
パワハラ法制の概要と施行までの準備対応
安倍嘉一

令和元年の5月29日、「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」(旧雇用対策法。以下「労働施策総合推進法」という)の改正案が成立し、いわゆるパワーハラスメントに関する法律が新たに設けられた。そこで本稿においては、法律の概要と施行までに企業がしておくべき対応について概説することとする。

労働法

どのような言動がパワハラと判断されるか?
裁判例にみる業務指導との境界線
近藤圭介・益原大亮

今般、「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」が改正され、同法により、パワハラ防止措置義務が新設されたことで、パワハラについて世間の関心は高まっているが、パワハラと業務指導との境界線が曖昧なこともあり、パワハラに該当するかどうかの判断は困難を伴う。本稿では、パワハラ該当性につき、過去の裁判例を通して、どのような事実に基づいて判断されるのかをみていくこととする。

労働法

調査、事実認定の際に持つべき担当者の視点
申告から会社対応決定までの思考フロー
秋月良子

社員からパワハラの申告を受けた場合、使用者としては、どこまでが事実として認められるか、その事実がパワハラに当たるといえるか、あるいは調査後の対応等、いろいろなことを考えなければならない。しかし、これらを順序よく、またそれぞれを区別して考えないと、使用者として最終的な対応を誤りかねない。本稿は、使用者がパワハラの申告を受けた際に、何をどのような手順で行うべきかを整理したものである。

労働法

パワハラの程度に応じた裁判所の判断ポイント
適切な懲戒基準の策定・運用
中井智子

社内でパワハラと思われる事案の申告を受けた場合、会社はまず迅速に事実関係の把握に努め、これらの事実調査を行ったうえで、パワハラと評価される行為か否かを判断する。パワハラと評価されれば、その結果に応じて、行為者に対する懲戒処分や配転などの必要な人事上の措置を行う必要がある。本稿では、事後措置の1つとして行為者に対する懲戒処分を検討する際の留意点を紹介する。特に、懲戒処分の程度について悩む会社も多いであろうと思われるため、懲戒処分の程度について争点になった裁判例を取り上げて検討する。

労働法

争うべき事案・和解すべき事案の分かれ目は?
訴訟追行、和解における留意点
盛 太輔

本稿では、たとえば、社員が会社でパワーハラスメント(以下「パワハラ」という)を受けたと主張して、会社に対して損害賠償請求訴訟を提起した場合のような、パワハラに関する紛争が訴訟となった場合(以下、便宜的に「パワハラ訴訟」という)を想定して、会社側の対応上の留意点について検討する。近時、労働をめぐるトラブルについては、労働者側が記者会見その他の方法による情報発信を行うことが多い。それらはメディアやインターネット等を通じて社会に拡散され、会社のレピュテーションの低下をもたらすことになる。パワハラは、労働者側が会社に対して怒り、恨み等の感情を強く持ちやすい紛争類型であること等から、労働者側による情報発信も多く、それによる会社のレピュテーション低下のリスクを無視することはできない。

労働法

管理職に知ってほしい
パワハラにならない部下の叱り方・接し方10箇条
小鍛冶広道

筆者は、弁護士として企業側の人事・労務問題に取り組むなかで、クライアント企業の社員向け各種研修を担当する機会が多いのであるが、そのなかでも、管理職向けのハラスメント防止研修は筆者の「一番の持ちネタ」である。本稿では、筆者が実際に管理職向けのハラスメント防止研修で指導している、「パワハラとされない部下の叱り方・部下との接し方」を「10箇条」として披露させていただく。

特集2
課徴金制度が大きく変わる
改正独占禁止法への準備
競争法・独禁法

基礎売上額、算定料率、違反期間等が変更
新しい課徴金算定方法の全体像
多田敏明

課徴金算定の全体像と現行法および改正の大枠は、おおむね【図表1】のとおりであり、本稿では、主として算定要素のうちの最初の3つ、すなわち、1「課徴金算定の基礎となる売上額」(以下「基礎売上額」という)、2算定料率、3違反期間に関する改正を扱うこととする。また、令和元年改正は主として不当な取引制限(カルテル・談合)に関する課徴金制度を対象とするものではあるが、私的独占および不公正な取引方法に関する課徴金制度にも改正が及んでいる部分があるため、必要に応じてそれらの改正についても言及することとしたい。

競争法・独禁法

2位以下の課徴金減額率も大幅に変更
調査協力インセンティブ導入と妨行為への制裁
内田清人・中村竜一

令和元年6月19日成立の独占禁止法改正(以下「改正法」という)により、公正取引委員会による調査の実効性を高めるためにさまざまな改正がなされた。たとえば、調査に協力するインセンティブを事業者に対して付与すべく、課徴金減免制度においては、これまで減免の基準であった申請時期および順位に加え、減算率の考慮要素として調査協力の程度を加味することになった。また、減免対象者の上限は撤廃された。他方、調査への非協力に対するディスインセンティブとして、調査妨害行為をした事業者に対する課徴金の加算、減免の失格事由の拡充および検査妨害罪における法人に対する罰金刑の引上げが図られた。

競争法・独禁法

適正手続の保障は進むか?
弁護士・依頼者間の「通信秘密保護制度」の概要と対応上の留意点
中野雄介

今回の改正法の施行に、公取委規則および指針という形で、弁護士・依頼者間における通信の秘密保護の制度が導入される見通しである。しかし、制度の趣旨や根本的な設計自体に問題があり、今回の改正でペナルティが強化されることを考慮すると、適正手続の保障が十分に進むのかは不透明である。本稿は、制度の評価のほか、制度が導入された場合における実務上の留意点も検討する。

競争法・独禁法

未然防止・有事対応の2つの視点で準備を
施行へ向け企業が確認すべきこと
宮川裕光

欧米を中心とする諸外国の法執行においては、企業側の調査協力による罰金・制裁金の減額が認められており、今回のわが国における独占禁止法改正も、こうした企業と競争当局との協力による競争制限行為の排除と抑止の推進を図るものである。新たな課徴金制度に係る具体的な手続や運用については、今後、規則やガイドラインの整備等が行われることにより明確にされるものと考えられる。本稿においては、公布後1年6カ月以内とされている改正法の施行に向けて、各企業が確認、準備等を行うべき内容について検討する。

実務解説

労働法

公表項目・対象事業主の拡大、「プラチナえるぼし」の創設
改正女性活躍推進法の概要
川端小織

令和元年5月29日に女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(以下「女性活躍推進法」という)等の一部を改正する法律が成立した。 平成27年に成立した女性活躍推進法の成果となお残る課題を見据え、さらなる女性活躍推進を実現するために、今回の改正で、女性活躍に関する情報公表項目の増加、対象事業主の策定義務拡大、特例認定制度「プラチナえるぼし(仮称)」の創設などを定めた。本稿は、これらの改正点について解説し、企業の対応について考える。

知財

登録対象・関連意匠制度の拡充等
改正意匠法・意匠審査基準の概要
青木博通

改正意匠法が2019年5月17日に公布され、一部の規定を除いて、公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日から施行されることになっており、2020年4月1日に施行される可能性が高い。デジタル技術を活用したデザインの保護やブランド構築等のため、意匠制度を強化することが、意匠法改正の趣旨である。

知財

査証制度の新設、損害賠償額算定方法の見直し
改正特許法の概要
松山智恵・髙梨義幸

令和元年5月10日、第198回国会にて「特許法等の一部を改正する法律案」が可決・成立し、同月17日に法律第3号として公布された(以下「本改正」という)。本改正においては、特許訴訟制度をより充実したものにするという観点から、1専門家が被告の工場等に立ち入り、特許権の侵害立証に必要な調査を行うという新たな証拠収集制度(以下「査証制度」という)が新設され、2損害賠償額算定方法の見直しがなされた。1査証制度については、令和2年10月1日に施行、2損害賠償額算定方法の見直しについては、令和2年4月1日に施行される予定である。本稿においては、本改正の概要を説明し、実務に与える影響について解説する。

労働法

経営判断との関係で高年齢者雇用問題を考える
定年制と高年齢有期再雇用者の労働条件
山下眞弘

年功賃金制のもとでは、若年層は賃金が低く、高年齢となるにつれ成果にかかわらず賃金が高くなる。そのため、長期の収支勘定を合わせる仕組みとして定年制が必要とされる。だとすれば、給与体系をフラットにすれば、定年制の必要もなくなり、高年齢者の継続雇用の道も拓け、労働力不足の問題も解消するかもしれない。しかし問題は、いかにして各年齢層に公平な制度設計ができるか。真に働く意欲と能力をもつ高年齢者をいかにして発掘するか。業種等を無視し一律に定年制を廃止して、企業は経営を維持できるか。最近注目の裁判例と法改正も視野に入れて、実現可能な将来展望をしてみよう。

企業法務総合

デジタルプラットフォームを始める際の法的留意点(下)
矢田 悠・玉川竜大

前回は、デジタルプラットフォーム事業を、特定の利用者同士が直接契約関係に立つマッチング型と、広告主からの広告料が主な収益源となるメディア型に大別しつつ、両者に共通する法的論点について解説した。今回は、マッチング型とメディア型のそれぞれで問題となりやすい規制や法的論点について、とりわけ検討事項の多い前者に重点を置いて解説する。

会社法

米国M&Aにおけるサイバーセキュリティ、データプライバシーの実務
ジョゼフ・カステルチーオ・田中健太郎

世界中でサイバーセキュリティおよびデータプライバシー(以下「サイバーセキュリティ等」という)に関する関心が強まっており、これらに関する議論が活発になされているが、日本では、M&Aの文脈においてこれらの問題点を中心に検討した論考は必ずしも多くないように思われる。サイバーセキュリティ等に関する問題は、小さな綻びが広範囲かつ壊滅的な被害を企業に及ぼすリスクを含んでいること等から、企業価値に大きな影響を与える可能性があるため、M&Aの文脈において、これらの問題を検討することの重要性が増してきている。本稿では、米国実務をふまえ、M&Aにおけるサイバーセキュリティ等に係るリスクのうちいくつかのポイントを紹介するが、これらは日本においても当てはまる部分も多いことから、M&Aに関わる実務家にとっての一助になれば幸いである。

会社法

「公正なM&Aの在り方に関する指針」の概要と実務上の留意点(上)
玉井裕子・濱口耕輔

本年6月28日に公表された「公正なM&Aの在り方に関する指針」は、MBOおよび支配株主による従属会社の買収において求められる公正性担保措置について実務上のガイドラインを示すものであるが、特別委員会の機能・役割等、これまでの実務対応を大きく変え得る内容を含むものであり、M&A関係者においてその内容を十分に理解しておく必要性が高い。本稿では、この指針の内容を概説するとともに、そこで提示されている公正性担保措置の実施にあたり実務上問題となり得る論点を中心に解説する。

速報解説
第198回 通常国会で成立したビジネス関連法律
企業法務総合

星 正彦

統一地方選と参院選が重なる12年に1度の「亥年選挙」の年となったこと、また、5月の天皇陛下のご退位およびご即位関連行事、6月の大阪でのG20首脳会議など政治イベントが目白押しであったため、第198回通常国会は、日程の制約があるなかでのコンパクトな国会となった。 新規の内閣提出法案は57件(他に継続1件)とかなり絞られ、社外取締役設置、株主提案権の濫用的行使の制限等を内容とする会社法改正案や違法ダウンロード規制を強化する著作権法改正案などは提出が見送られたが、以下のようなビジネス実務に重要な影響を及ぼす法律が成立した。

地平線
今、企業に求められる"真のパワハラ対策"
労働法

原 昌登

2019年5月29日、パワーハラスメント(パワハラ)の防止が法制化された。より具体的にいえば、労働施策総合推進法の改正により、企業等の事業主に周知・啓発(研修等)、相談体制の整備、発生時の対応といったパワハラ防止措置が義務づけられることになる。改正法は1年以内(おそらく2020年4月1日)に施行されるが、中小企業については最大で3年間、防止措置の実施が努力義務にとどめられる。

トレンド・アイ
クレーマーから従業員を守るには?
"カスハラ"対応の国内外動向

有賀隆之

社会通念を逸脱した顧客からの要求行為によりクレーム担当者が被害を受ける悪質クレームの問題は、近時、カスタマーハラスメント(カスハラ)の問題として注目を集めている。カスハラの問題自体は、古くからサービス産業などを中心に存在しており、悪質クレームにより担当者がメンタルヘルスに被害を受けるケースがあることなどは知られていたが、その実態は必ずしも明らかではなかった。

連載

企業法務総合

LEGALHEADLINES
森・濱田松本法律事務所

2019年5月〜6月

会社法

最新判例アンテナ
第17回 上場会社の株主総会決議について持株会理事長による権限を逸脱した議決権行使を理由に取消しを認めた事例(東京地判平31.3.8資料版商事法務421号31頁)

三笘 裕・坂口将馬

企業法務総合

ロイヤーの使い方を押さえる!法務のための英単語辞典
第5回 「譲渡する」はAssign?Transfer?
豊島 真

「譲渡する」に相当する単語として契約書などでよくみかけるのがassignとtransferである。「assignortransfer」でまとめて「譲渡する」と和訳している例もみかける。では、日本語の「譲渡する」とassignやtransferは同じなのだろうか。また、assignとtransferにはどのような違いがあるのだろうか。今回は、この両単語の使い方についてみていこう。

労働法

会社がすべきこと・しなくてよいこと
メンタルヘルス不調者への対応実務
最終回 精神疾患と労働災害
向井 蘭

本稿では、精神障害と労働災害に関する実務上の論点についてとりあげた。精神障害と労災認定は、自殺の事案がよく報道でとりあげられるが、自殺以外の精神疾患が労働災害に当たるとして、労災申請を行う事例もよくある。労災認定がなされれば、実務上、安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求につながる場合も多く、深刻な紛争に発展する可能性が高くなる。事前にリスクを理解していれば自ずと対応が変わり紛争の予防につながる。

企業法務総合

第2キャリアとしての弁護士
第6回 技術法務で、日本の競争力に貢献する
永島太郎

大学は、とあるマンガで有名な北海道大学獣医学部に入学した。動物のお医者さんである。病理学教室に所属して、毎朝、組織保存用のホルマリン溶液を作ったり、(不幸にも亡くなった)動物達を解剖させてもらって、顕微鏡で組織を観察したりしていた。自分で作成した組織切片を顕微鏡で最初に覗く時の高揚感は、今でも忘れられない。あれは小宇宙である。大学5年生の時に、実験・手術用の手袋が肌に合わないことがわかり、臨床医や研究者になることは諦めた。

企業法務総合

若手弁護士への箴言
最終回 ヒューマンワークとデジタルワークの融合か?
髙井伸夫

人口減少による国内市場の萎縮やインターネットなどのITの発達を背景にグローバル化が急進展するにつれ、どのような仕事でも英語力が必要になってきている。来年度から小学校の英語教育が必修化されるのも当然の流れであろう。中国語やスペイン語など第三言語の習得がなければ強みにはならないという意見もあるほどだ。

企業法務総合

若手弁護士への箴言
最終回 ヒューマンワークとデジタルワークの融合か?
髙井伸夫

人口減少による国内市場の萎縮やインターネットなどのITの発達を背景にグローバル化が急進展するにつれ、どのような仕事でも英語力が必要になってきている。来年度から小学校の英語教育が必修化されるのも当然の流れであろう。中国語やスペイン語など第三言語の習得がなければ強みにはならないという意見もあるほどだ。

会社法

事業承継におけるM&Aの基本と心構え
最終回最良のM&Aアドバイザーとめぐりあうには?
福谷尚久

M&Aという手法を利用する際には、さまざまな観点からアドバイザーが必要になる。別の言い方をすると、M&Aを利用する事業承継の成否は、アドバイザーの善し悪しで決まるといっても過言ではない。ただその際に、最初の相談をどこにどのようにすればよいのかについての具体的なノウハウは、残念なことにあまり知られているとはいえない。

民法・PL法等

要件事実・事実認定論の根本的課題──その原点から将来まで
第23回 売買②─新民法(債権関係)における要件事実の若干の問題
伊藤滋夫