法定準備金の減少の税務上の取扱いについて
先の通常国会における商法改正では、金庫株の解禁や単元株制度の導入の他、法定準備金の減少の制度が整備された。法定準備金の減少に伴う税務上の取扱いの課題について整理したい。
商法上の取扱い
従来、法定準備金よりも高速性の強い資本についてはその減少手続が設けられているにもかかわらず、法定準備金に減少手続がないということの問題性が指摘されてきたところであり、今回の改正では、資本減少手続に準じた取扱いをすることで、法定準備金の減少が認められた。
この結果、会社は、株主総会の普通決議をもって、資本準備金および利益準備金の合計額から資本の4分の1に相当する額を控除した額を限度として、資本準備金または利益準備金を減少することができるようになった。なお、総会決議後、資本減少と同じく、債権者保護手続をとる必要がある(商法289条)。
こうして取り崩された法定準備金は、配当可能利益の算定上、純資産からの控除項目でなくなり、利益準備金を取り崩した場合には未処分利益として、資本準備金を取り崩した場合には「その他の剰余金」として表示することとなった。
これらの減少額は、法定準備金の減少の決議を行った株主総会の日の属する営業年度末の配当可能利益を構成することになる。また、商法上の明文規定はないものの、減少の決議において、減少額をもって欠損の補填や株主への金銭分配を行うことも、資本減少の場合と同様に可能であるとの解釈が有力である。
また、当期中の自己株式取得の原資とすることも可能である。
税務上の取扱い
まず、法定準備金減少決議を行った当期末に、減少額を原資として配当を行った場合の取扱いが問題となる。法定準備金に係る商法改正に伴う税務上の改正は特になされていないことから、資本準備金を減少させた場合であっても、税務上は、資本積立金(法人税法2条17号)の減少とはならないことに注意しなければならない。
したがって、減少した法定準備金が利益準備金であっても資本準備金であっても、税務上の取扱いはまったく同じであり、配当をした法人については配当金額を利益積立金から減算し(法人税法2条18号チ)、配当を受け取った株主は全額が受取配当として課税されることとなる。本来、資本準備金を減少して配当原資とした場合には、出資の払い戻しとも考えられることから、株主への配当課税を行うことに理解が得られるか疑問の残るところである。
一方、法定準備金の減少決議とあわせて金銭を株主に交付した場合、税務上の取扱いについては何ら明文の規定がなく、その取扱いが問題となる。法定準備金の減少手続が資本減少手続に準じて創設されたことからすると、税務上も有償減資に準じた取扱いをすることが一つの方法として考えられよう。
すなわち、交付金銭の額を前期末簿価純資産価額で除し、これに準備金減少の直前の資本等(=資本+資本積立金)の金額を乗じた金額だけ資本積立金額を減少させるとともに(法人税法2条17号レ参照)、株主に交付した金銭の合計額がこの金額を超えるときは、その超える部分の金額につき、利益積立金を減少させる(法人税法2条18号ヌ参照)ことが考えられる。一方、金銭交付を受けた株主においては、受け取った金銭の額が、その法人の資本等の金額のうち、その交付の基因となった法人の株式に対応する部分の金額を超える場合、その超過金額がみなし配当として課税されることが考えられる。
このように、期末における配当にするのか、有償の資本準備金減少とするのかによって、金銭交付の時期が異なるだけで、特に株主の課税が異なることになる可能性がある点について、立法措置による解決が必要と考えられる。
〈Y.O 〉
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