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SCOPE EYE 環境会計をめぐる環境パートナーシップと政策展開 中川雅治 |
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プロフィール なかがわ・まさはる■1969年東京大学法学部を卒業し、同年大蔵省入省。同省主計局主計官、理財局総務課長、国税庁調査査察部長等を経て、1998年同省理財局長。2001年1月より環境省総合環境政策局長。 |
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わが国は、高度経済成長に伴う産業公害の克服に多大な努力を払い、成果を挙げてきたが、大量生産、大量消費、大量廃棄を前提とした生産と消費の構造に根ざした地球温暖化や大量の廃棄物発生などの環境問題が存在している。これらの解決には、社会経済の構造を環境の視点から変革することが必要であり、消費者、地域住民、企業、NPO 、研究者、行政等がパートナーシップを形成することによって、社会のあらゆる主体が自主的、積極的に環境保全に取り組むことが不可欠である。その中でも特に、経済活動の主たる担い手である企業が、環境保全についての社会的責務を認識し、積極的な取組みを進めることが重要である。企業が環境報告書の作成、環境会計の実施、環境パフォーマンスの評価等に取り組み、公表することで、国民が環境保全活動に積極的な企業の製品や株式等を自主的に選択することを促進し、環境保全活動が企業の利益創出につながるようにすることが必要である。このため、国が環境報告書や環境会計等の普及促進を図ることを通じて企業の自主的な環境保全活動を支援することは、環境パートナーシップを形成し、持続可能な社会を実現していくためにも有効であると考えている。 わが国の環境会計への取組 環境会計とは、企業等が持続可能な発展を目指して、社会との良好な関係を保ちつつ環境保全への取組を効率的かつ効果的に推進していくことを目的として、事業活動における環境保全のためのコストとその活動により得られた効果を可能な限り定量的(貨幣単位または物量単位)に把握(測定)し、分析し、公表するための仕組みである。環境会計は、企業等の経営活動に環境への配慮が一層盛り込まれることを通じて、環境負荷の少ない持続可能な経済社会を構築するための有効な手段として期待されている。平成12年度「環境にやさしい企業行動調査」(環境省)によると、約350社が環境会計をすでに導入していると回答しており、また、環境省が別途調べたところ、環境会計情報を環境報告書等を通じて公表している企業は、平成11年4月時点での2社から現在では180社以上へと急速に増加している。 環境省では、平成11年6月に企業担当者との情報交換の場としての企業実務研究会および日本公認会計士協会との共同研究会を発足させ、平成11年11月には学識経験者等からなる検討会を設置した。これらの検討会等で幅広く議論を重ね、平成12年5月に「環境会計システムの導入のためのガイドライン(2000年版)」を主たる内容とする「環境会計システムの確立に向けて(2000年報告)」を公表した。このほか、解説書として「環境会計ガイドブック」(TおよびU)を作成、配布し、また、国内外の有識者を集めた「環境会計国際シンポジウム」を開催するなど普及啓発に努めている。なお、これらガイドライン等は、環境省のホームページ(http://www.env.go.jp/policy/kaikei/index.html)に掲載するとともに、無償で配布している。 環境省の公表したガイドラインは、環境会計情報の外部公表を通じた社会とのコミュニケーションツールとしての機能および企業の経営管理ツールとしての機能を説明し、環境会計の外部機能と内部機能を網羅的に取りまとめたものとなっている。なお、環境会計については、たとえば経済産業省において環境会計の内部機能に関して個別具体的な内部管理手法の研究がなされているなど、他省庁でも環境省の総合的なガイドラインを補完する形での取組みがなされている。 環境会計の国際的調和 環境会計は海外においても注目されている。国連の持続可能開発部では「環境会計の促進に関する政府の役割の改善に関する専門家会合」が各国の環境省代表等の参加により平成11年から開催され、過去4回の会合が行われた。わが国からはいずれも環境省が参加し、日本における環境会計の状況を紹介しており、環境会計情報を公表している企業数が多いことや、環境会計、環境報告書、環境パフォーマンス指標が一体となった取組みなど、わが国の取組が実践的かつ先進的であると各国の参加者から高く評価されている。また、平成13年には、アジア太平洋地域における環境会計の情報交換ネットワークであるアジア太平洋環境管理会計ネットワーク(EMAN-AP)が設立され、今後、アジア地域で環境会計の取組が急速に拡大することが見込まれる。環境省では本ネットワークを通じて日本の取組みを紹介することで、わが国の環境会計手法のアジア地域への普及に貢献したいと考えている。 また、財務会計と環境会計との関わりについても研究が進められている。たとえば、国連貿易開発会議(UNCTAD)が平成11年に財務諸表本体や財務諸表の注記等の中で環境会計情報の開示を促すガイドブックを公表し、このほか、イギリス公認会計士勅許協会(ACCA)等も同様の趣旨の報告書等を公表しており、既存の財務会計の枠組みの中での環境関連情報の開示が示唆されている。なお、わが国でも、すでに日本公認会計士協会において財務会計の枠組み内での環境会計についての研究がなされており、海外の研究動向を整理した上でわが国の問題を検討した報告書が公表されている。 このように環境会計については国際的にもさまざまな検討がなされており、環境省では、今後の統一的手法の構築に向けて、引き続きわが国の環境会計手法等を国際的な議論に的確に反映させていくことで、海外との環境パートナーシップの形成にも努めていきたいと考えている。 さらなる普及を目指して 企業の自主的な環境保全活動がさらに推進されるためには、その取組みを促進するためのツールとして環境省が提供する環境報告書や環境会計等のガイドラインを社会の要求や企業の実情に則するように逐次改訂し、より有用なガイドラインとしていくことが必要である。平成13年度には環境会計ガイドラインの改訂を計画しており、今後とも各種ガイドラインが十分な成果を発揮できるように見直しを加えていくこと等により、引き続き環境報告書や環境会計等の普及促進を図っていきたいと考えている。これらの施策を通じてより強固な環境パートナーシップを形成し、企業や国民等の環境配慮への積極的取組みをさらに促進していくよう努めていきたい。 |
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