<インターネットで学ぶ会計学>

実証会計学

執筆者:須田一幸

  実証会計学(positive accounting theory)の研究プロセスは一般に,@研究対象に関する先行研究を分析し,現時点で明らかになっていることを確認する,A先行研究を踏まえ新たな視点で仮説を設定する,Bサンプルを選択しデータを収集する,Cデータを統計的に分析し仮説を検証する,D検証の結果を解釈し残った問題点を指摘する,という手順を踏む。それぞれの過程でインターネットを活用することができる。その主なサイトを紹介しよう。

 @とAのプロセスで先行研究を調査するには,Social Science Research Network(右頁)からダウンロードしたワーキング・ペーパーが役に立つ。会計学のサイトはRoss Wattsが主宰し,財務論のサイトはMichael Jensenが管理しているので,掲載されるワーキング・ペーパーも粒ぞろいである。それぞれのTop 10 Downloadsは見逃せない。コーネル大学のThe Parker Center Working Papers Series(右頁)にも良質のワーキング・ペーパーが揃っている。日本語のワーキング・ペーパーは,日本銀行金融研究所とディスクロージャー研究学会のサイト(右頁)からダウンロードできる。前者のサイトからは,『金融研究』に掲載された論文とIMES Discussion Paper Seriesのダウンロードが可能であり,後者のサイトからは,『現代ディスクロージャー研究』に掲載された論文などがダウンロードできる。神戸大学経済経営研究所のサイトへ10月にアップロードする予定の須田一幸研究室(http://www.rieb.kobe-u.ac.jp/academic/ResearchStaff/index-j.htm)からも,いくつかのワーキング・ペーパーがダウンロードできる。

 Bのプロセスでは,東洋経済企業データバンクとNIKKEI@IR(右頁)が利用できる。前者のサイトで企業名を検索すれば,その企業の基本情報と直近3期間の財務データが表示される。後者のサイトからは,日本経済新聞に掲載された決算公告を,直近の3期間について入手することができる。しかし,インターネットから多数の企業について詳しい財務データを無料で入手することはできない。したがって,大量のサンプルを使用する実証研究では,有料のデータベースを使用せざるを得ない。日本企業については日経NEEDS(http://www.nqi.co.jp/needs/n#top.html),アメリカ企業についてはCompustat(http://www.compustat.com/www/)が,代表的なデータベースである。

 Cのプロセスでは,統計解析が必要となる。青木氏のホームページBlackBox(右頁)は,ウェブ上で統計解析することを目的にしており,ユーザーのデータをアップロードすれば,サーバーに用意されたプログラムで統計解析し,結果を返送してくれる。統計用語の検索や統計学関連の質問コーナーもあり,とても貴重なサイトである。個人で運営しておられるので,節度ある利用が求められよう。Handbook of Econometrics(右頁)は,計量経済学の新しい動きと分析上の留意点を詳細に示している。P.J. Dhrymesの“Limited Dependent Variables"やGourieroux and Monfortの“Testing Non-Nested Hypotheses" を,フルテキストでダウンロードできることがうれしい。

 本格的に実証会計学に取り組むのであれば,統計解析ソフトを常備すべきである。SPSS(http://www.spss.co.jp/)とSAS(http://www.sas.com/)は,いろいろな分析に使える汎用性の高いソフトである。TSP(http://www.tspintl.com/)は,エコノメトリクスに特化したソフトであり,RATS(http://www.estima.com/)はエコノメトリクスの時系列分析で威力を発揮し,LIMDEP(http://www.limdep.com/)は,制限従属変数モデルの推定とパネルデータ分析に適している。分析のタイプに応じてソフトを使い分けるといいだろう。

Social Science Research Network

http://www.ssrn.com/

  教員は45ドル,学生は25ドル支払えば会員になれる。会員には,新しいワーキングペーパーが掲載されるたびに,メールで連絡される。関心のあるペーパーであれば,SSRNにアクセスしてダウンロードする。非会員でも,著者名などでワーキングペーパーを検索し,それをダウンロードすることができる。

The Parker Center Working Papers Series

http://parkercenter.johnson.cornell.edu/papers.html

 以前は何の制約もなくこのサイトを利用できたが,最近,パスワードを入力してログインするようになった。しかし,ウェブマスターに利用希望のメールを送れば,パスワードは即日発行される。ダウンロードできるワーキングペーパーの数は,SSRNと比較すれば格段に少ないが,ペーパーの質は高い。

日本銀行金融研究所

http://www.imes.boj.or.jp/index.html

 このサイトから「発表論文等」にアクセスすれば,『金融研究』およびMonetary and Economic Studiesに掲載された論文と,IMES Discussion Paper Seriesの論文をフルテキストでダウンロードすることができる。会計学よりも金融論や計量経済学の論文が多い。実証研究のアイディアが満載されている。

ディスクロージャー研究学会

http://www.mmjp.or.jp/disclosure/

 会報『現代ディスクロージャー研究』に掲載された論文をダウンロードすることができる。また「論文・評論・報告集」にアクセスすれば,ディスクロージャーやコーポレート・ガバナンスに関する文献を入手することができる。ディスクロージャー研究学会年次総会の内容も示されている。

東洋経済企業データバンク

http://www.tktoushi.com/data/databank/

  証券コード,社名,あるいは業種から調べたい企業を特定し,その企業を検索すれば,基本情報と連結決算および単独決算のデータを入手することができる。キャッシュフロー情報やROAとROEなどの数値と決算発表日が示されており,サンプルの少ないイベント・スタディーに利用できる。

NIKKEI@IR

http://ir.nikkei.co.jp/index.asp

 証券コードなどで調べたい企業を特定し,その企業を検索すれば,日本経済新聞に掲載された決算公告および新株発行などの公告を過去3期間について見ることができる。また,PERやPBRなどの投資指標と株価のデータも入手できる。たとえば,過去25営業日の株価と売買高のデータが示されている。

青木氏HP Black-Box

http://aoki2.si.gunma-u.ac.jp/BlackBox/BlackBox.html

  このサイトに行けばウェブ上で統計解析ができる。たとえば,基礎統計量や相関係数を求め,クロス集計を行い,そして重回帰分析や因子分析などを実施することができる。不明な統計用語があれば,「統計学用語辞典」で調べられる。解析で生じた具体的な問題は,「掲示板」を通じて解決可能である。

Handbook of Econometrics

http://www.elsevier.com/hes/books/02/menu02.htm

 Handbook of Econometricsの執筆者は,D.L.McFaddenやG.S.MaddalaあるいはJ.A.Hausmanなどの著名な計量経済学者である。これまで4巻刊行され,第5巻がまもなく出版される。パネルデータ分析や非線形回帰分析などが分かりやすく説明され,このサイトからすべての論文がフルテキストでダウンロードできる。