与党の証券市場等活性化対策プロジェクトチームの中間報告が、さる2月9日に取りまとめられた。その中で特に注目されるのは、金庫株の解禁のための商法改正を今国会中にも議員立法で行うという方針が明らかにされたことである。ここでは、商法を中心に、金庫株解禁をめぐる論点について整理したい。
自己株式取得・保有の現行規制
現行商法(210条)では、資本維持・株主平等・支配の公正・株式取引の公正の観点から、自己株式の取得は原則として禁止されている。
ただし、210条各号および消却特例法に基づく@株式の消却、A合併・営業の全部譲受による取得、B会社の権利実行の目的を達するため必要な取得、C株式買取請求権の行使に応じてなす取得、D株式譲渡制限のある会社において会社が先買権者として指定された場合については、それぞれの制度目的を達するためには自己株式の取得を認める必要があることから例外的が設けられている。また、取締役または使用人に譲渡するための取得(210条ノ2)、株式譲渡制限のある会社において株主の相続があった場合(210 条ノ3)も例外が認められている。
こうした取得事由の制限を前提に、資本維持・支配の公正の観点から、いったん取得した自己株式の長期間の保有を認めず、消却のための取得の場合は遅滞なく株式失効の手続をとることとされ、取締役または使用人に譲渡するための取得については買い受けから6カ月以内に、ストック・オプションの場合は権利行使期間内に取締役または使用人に譲渡すべきこととされているほかは、相当の時期に株式を処分しなければならないとされている。
商法上の論点
今回の与党の方針を受け、自己株式の保有期間の制限を撤廃する方向で商法改正の検討が進むものと思われるが、その際の主要な論点として次のような点が考えられる。
第一に、資本維持の観点から、保有目的での自己株式の取得財源の規制である。現行法での消却などの取得財源規制である配当可能利益と資本準備金の範囲内ということになるのではないか。また、消却、譲渡制限会社の先買権者としての取得・相続人からの取得、取締役または使用人に譲渡するための取得の場合において、営業年度の終わりに資本の欠損が生じるおそれがある場合には取得が禁じられているが、同様の規定を置く必要があるのではないか。
第二に、株主平等の観点から、消却、取締役または使用人に譲渡するための取得と同様に、取引所の相場または取引所の相場に準ずる相場がある場合には、取引所取引または取引所取引に準ずる取引によりまたは公開買付により取得しなければならないことになるのではないか。
第三に、支配の公正の観点から、保有する自己株式については議決権を行使することができないこととする必要がある。
証券取引法、税法上の論点
商法上の課題のほか、特に、株式取引の公正の観点から、相場操縦やインサイダー取引を防止する必要がある。この点は証券取引法上の手当てが必要であり、与党の中間取りまとめにおいても、「不公正取引(インサイダー取引、相場操縦等)の防止や投資家への情報開示などに関し、…万全な措置を講じ」ることとされている。
また、従来の商法・税法では、自己株式の取得・譲渡は、他の法人の株式の取得・譲渡と同様に取り扱われている。しかし、株式交換において完全親会社が完全子会社の株主に新株の代わりに保有する自己株式を交付した場合、帳簿価額で交付したものとして損益を認識しない措置が講じられ、今回の平成13年度税制改正では、合併・分割についても同様の措置がとられることとされている。
現在は、相当期間に処分することが強制されている自己株式のみの措置であるが、金庫株解禁の際には保有する自己株式全般についても同様の措置が望まれる。
〈Y.O〉
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