インターネットで学ぶ財務会計

 近年,財務会計の分野では,金融商品会計と呼ばれる新しい領域がクローズアップされてきた。
 一般に金融商品とは,現金,持分証券,またはある種の契約上の権利・義務をもたらす契約をいう。
 金融商品会計の主な目的は,金融市場のグローバル化,デリバティブ商品の発展のもとで,企業の財務リスク・ポジションを財務諸表に適切かつタイムリーに反映させ,企業のリスク管理や投資者によるリスク評価に資する情報を提供することにある。
 そこで本稿では,最近の金融商品会計の概要について簡単に触れることにしたい。
 近年の金融・資本市場におけるグローバル化・自由化の進展は,金利・為替のボラティリティに伴う著しい金利・為替リスクをもたらし,リスク移転を推進するための新型金融商品を次々と開発し,登場させることになった。
 アメリカ財務会計基準審議会(FASB)は,このような金融商品に関する会計基準設定の緊急性・重要性から,1986年5月にFASB金融商品プロジェクトを発足させ,これまでいくつかの会計基準を公表してきた。その成果として,FASB基準書第105号,第107号,第119号および第133号などがある。
 FASBは,金融商品プロジェクトの審議過程を通じて,金融商品(とくにデリバティブ)に最も適合した測定属性は公正価値であるとの基本的結論に達した。これは,1998年6月公表のFASB基準書第133号『デリバティブ及びヘッジ活動に関する会計処理』にも反映されている。
 すなわち,「公正価値は金融商品にとって最も適合した測定値であり,デリバティブにとって唯一の適合性ある測定値である」(par.220)。同時期に公表された国際会計基準委員会(IASC)のIAS第39号『金融商品:認識と測定』や,わが国企業会計審議会の『金融商品に係る会計基準の設定に関する意見書』も同様に,金融商品を公正価値(ないし時価)に基づき認識・測定する立場を採用している。
 今回設定された上記3つの金融商品の会計基準には,その基本的考え方についていくつかの特徴点がある。それは,1金融資産・負債の認識,2金融商品の消滅の認識,3金融商品の公正価値評価,4評価差額の損益認識,および5ヘッジ会計の導入である。
 金融商品会計が上記1〜5の特徴点をもつようになった背景には,財務会計のパラダイムが,貸借対照表に焦点をあてた会計観(貸借対照表パースペクティブ)へとシフトしていることが挙げられる。
 すなわち,上記1と2とは,あきらかに概念ステートメント第6号の資産・負債概念との整合性を強調したものであり,オンバランス化の論拠を提供するものといえる。
 上記3と4とは,ストックとしての金融商品の現在価値評価額(キャッシュ・フロー)の側面に注目しようとするものであり,貸借対照表サイドに焦点がある。
 そして,上記5について,繰延利得・損失による繰延ヘッジ会計を認めないFASB等のヘッジ会計は,繰延利得・損失が資産・負債概念を満足しないとの考え方に立つものであり,その基礎には貸借対照表重視の会計観が認められる。
 上記のような特徴点を有する金融商品会計の登場は,デリバティブや金融商品など巨大な金融市場の発展を背景とする時価会計に焦点をあてた新たな財務会計パラダイムの萌芽をなすものとして位置づけられるであろう。
 
(執筆者:古賀智敏・島永和幸)

アメリカ財務会計基準審議会(Financial Accounting Standards Boards : FASB)
http://www.rutgers.edu/Accounting/raw/fasb/
1986年5月発足のFASB金融商品プロジェクトを有するアメリカの会計基準セッターのホームページ。つねに最先端をいく金融商品に係る会計基準を公表している。
国際会計基準委員会(International Accounting Standards Committee: IASC)
http://www.iasc.org.uk/
証券監督者国際機構(IOSCO)の委託によるコア・スタンダードを公表する会計基準セッターのホームページ。1998年12月に,懸案の『金融商品会計:認識と測定』をIAS第39号として公表し,コア・スタンダードを完成。金融商品に関するジョイント・ワーキング・グループ(JWG)のコンテンツもダウンロードすることができる。
FASB基準書第133号,第138号,およびIAS第39号の解説等
http://www.trinity.edu/rjensen/acct5341/speakers/133glosf.htm
米国トリニティ大学(TrinityUniversity)のジェンセン(RobertE.Jensen:Ph.D(StanfordUniversity))のホームページ。FASB基準書第133号,第138号およびIAS第39号の平易な解説の他,同基準書の用語集(解説)も掲載されている。
FASB基準書第133号『デリバティブ及びヘッジ活動に関する会計処理』の適用事例
http://www.gonzaga.edu/faculty/teets/index0.html
ティーツ=ウール(WalterR.TeetsandRobertUhl)が米国証券取引委員会(SEC)に在籍していた頃に作成されたホームページ。FASB基準書第133号の適用事例の他,パワーポイントを用いたスライドによる解説など有用な情報をダウンロードすることができる。

企業会計審議会
http://www.mof.go.jp/singikai/kaikei/top.htm
日本における会計基準セッターのホームページ。最近では,1999年1月に『金融商品に係る会計基準の設定に関する意見書』を公表しており,閲覧することができる。
日本公認会計士協会
http://www.jicpa.or.jp/
日本公認会計士協会のホームページ。企業会計審議会は大きなフレームワークを作成する基準セッターであるのに対して,日本公認会計士協会はより具体的な基準セッティングを行っている。最近では,「金融商品会計に関する実務指針(中間報告)」を公表している。
国際金融コモディティ・リスク協会(IFCIRiskInstitute)
http://newrisk.ifci.ch/index.htm
金融規制や金融リスクおよびリスク管理に関する総合的な研究を行っているIFCIのホームページ。国際決済銀行(BIS)やIOSCOなど金融リスクに関するドキュメントを公開・リンクしており,最近の規制環境を把握することができる。また,デリバティブに関する会計や開示規制ついても最新の情報がアップされている。
デリバティブ関連用語集
http://www.margrabe.com/Dictionary.html
ウイリアム・マーグレーブ・グループのホームページ。デリバティブに関する用語集を掲載している他,金融商品に関する用語集を掲載しているサイトのリンク集もアップされている。