財務会計,特にその史的研究においてインターネットがもっとも有意義になるであろう場面として,物理的にアクセスの難しい文献へのオンラインでのアクセス,そして経済学の領域ではかなりの広がりを見せてきたe-textの入手などが考えられよう。
このような動きで参考になるのが経済史の領域である。まず,出発点となるべきページとして,EH.Net
(http://eh.net/) とよばれるサービスが存在し,ファイルサーバが置かれ,また各領域の研究者が議論するための場としてのメーリングリストが設置されている。経営史もこのサービスの一部をなしており(http://eh.net/ 〜bhc/),メーリングリストでは活発な議論が行われているほか,時には会計史研究書に対する書評が投稿されることもある。
また,経済学文献のオンライン化という点では,多くの著作がe-textとしてオンラインで公開され,文献の入手可能性を大きく向上させている点が注目される。ほとんどは印刷された雑誌や書籍をスキャンするか,あるいは手で入力したものであろうから,スキャンミスや入力ミスは皆無ではないし,今日のオンライン・ジャーナルのようなレイアウトの再現性は有していないため,直接の引用には不向きである。反面,プレインテキストであるという特徴は,検索性を高めるという利点も有しており,メディアの特徴にあわせた活用が可能であろう。
ただし,会計史の領域では経済史のそれに比べて,インターネットの活用はまだ十分とはいえないのが現状である。たとえば,古くから存在してきた会計雑誌論文のe-textが利用可能になったという話はこれまでには聞かれない。もっとも,e-textがまったく存在していない訳ではなく,たとえば右に掲げたAcademy of Accounting HistoriansのページからはGarnerの著書が得られるし,会計史領域の研究書の本文を公開しているサイトはそのほかにもいくつか存在している(たとえば,David ForresterのAn Invitation to Accounting History [http://accfinweb.account.strath.ac.uk/df/aitah.html
])。
また,多くの研究者にとって,つい最近まで古い簿記書について,物理的なアクセスに対する制約が存在していた。これらがインターネットで公開されたならば,マイクロフィルムやマイクロフィッシュ等のメディアで配布されるよりもさらに大きな利便性が得られるであろう。
このようなデジタルアーカイブの試みの例として是非訪れておきたいのが,右のページでも紹介しているペンシルヴァニア大学図書館のCorporate Annual Reportsである。同サイトには,19世紀半ば以降のアメリカの株式会社数十社のアニュアルレポートをスキャンしたものが,Adobe社のPDF(portable document format)形式で,見た目も美しく公開されている。これらをダウンロード・印刷することにより,たとえば授業においても,学生に対して昔のアニュアルレポートの分量やその開示範囲を説得力を持って示すことができるのである。
今後,会計史研究に有用な情報が提供されるサイトが増加していくことを願ってやまない。
(なお,日本会計史学会では暫定的にホームページを作成し,公開している
(http://www.b.kobe-u.ac.jp/aha/) 。参照されたい。)
(執筆者:中野常男・清水泰洋)
Academy of Accounting Historians
(http://weatherhead.cwru.edu/Accounting/Default.htm)
米国の会計史学会のホームページである。機関誌であるThe Accounting Historians Journalの情報や,学会の予告などが記されている。残念ながらオンラインでの活動はそれほど活発ではない。また,わずかではあるがe-textが利用可能となっている。その中でも,S. Paul GarnerのEvolution of Cost Accounting to 1925が利用可能なのは出色。
Accounting Hall of Fame
(http://www.cob.ohio-state.edu/dept/acctmis/hof/hall.html)
会計界に対して貢献の大きかった人物を顕彰するAccounting Hall of Fameのオンライン版。このサイトにアクセスすることによって,受賞者の簡単な経歴や顔写真を確認することができる。本来のAuounting Hall of Fameは開始後約50年が経過しているが,受賞者すべての情報がオンラインに登録されている。
SCETI: Corporate Annual Reports
(http://www.library.upenn.edu/etext/lippincott/)
ペンシルヴァニア大学図書館のCorporate Annual Reports Collectionがオンラインで利用できるようになった。昔のアメリカ企業の年次報告書が印刷イメージのまま閲覧可能であり,保存状態の悪い現物よりも遙かに再現度は高い。ただし画像情報がメインとなるため,ファイルサイズは多少大きくなる。対象企業数も多くなく,データが欠落している年度もあるので網羅性は高くないのが残念。
Accounting Historians' Guide to London
(http://www.rutgers.edu/Accounting/SUMMA/SUMMA/Bobsmap/map1.html)
イギリスのスンマプロジェクトの下にあるページ。会計史という観点からロンドン各所の地理案内を行っている。イギリスの会計史に興味があり,ロンドン訪問を考えている人には興味深い情報が数多く掲載されている。
Accounting: A Virtual History
(http://www.acaus.org/history/index.html)
Association of Chartered Accountants in the United Statesが作成・公開している会計史のページ。古代から現代までの会計の歴史について,簡潔に説明されている。『スンマ』の著者であるLuca Pacioliの絵も掲載されている。
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