インターネットで学ぶ財務会計

 

  2000年5月17日に、証券監督者国際機構(IOSCO )が「外国会社が国際的に資金調達する際に使用する財務諸表の作成基準として、国際会計基準(IAS )を認める」と表明したことにより、IAS の広範な実用化が急速に現実的な問題になっている。この機会に、IAS の「実践適用」に焦点を当てて、関連のホームページを覗いてみよう。
 IAS を論じる場合、国際会計基準委員会(IASC)そのもののホームページ(http://www.iasc.org.uk)は必読であるが、そこにはきわめて興味深い2つの表が含まれている。IAS の使用に言及している会社のリストと、IAS に準拠した連結財務諸表の使用を許容する証券取引所のリストである。
 IAS 使用会社としての認定は、監査人の報告書、会計方針の要約、または財務諸表への注記のいずれかの中で、その財務諸表がIAS に準拠している旨を明言していることを、IASCの事務局がアニュアル・レポートで確認することによって行われている。リストされた企業数は全世界で961社にのぼるが、国別の分布が興味深い。最多はドイツの161社で、次いで中国の121社、スイスの106社と続き、日本については次の10社がリストされている。第一勧業銀行、富士通、鹿島、関西電力(? )、キリンビール、日産自動車、さくら銀行、三和銀行、佐世保重工業、東レがそれである。
 そこで各社の英文アニュアル・レポートを見てみよう。各社のホームページにアクセスしてもよいが、英文アニュアル・レポートを集めた便利な場所がある。私がしばしば閲覧するのは、Carol World とGlobal Corporate Information Services である。前者には欧米と並んでアジア企業の中に多数の日本企業が含まれ、また後者には日本企業約200社の資料が収録されている。Adobe社のPDF (portable document file)の形式で収録されているから、Acrobat Readerという無料ソフトを先に画面からダウンロードしておく必要がある。
 上記の日本企業のうち、IAS への準拠を最も直接的に表明しているのは、富士通の1997年と1998年のアニュアル・レポートである。そこでは連結財務諸表に対する注記として示された会計方針の冒頭で、その旨が明示されている。しかしこれ以外の企業については、IAS との差異の調整情報を提供している何社かを除いて、最近の年度のアニュアル・レポートでは、IAS への準拠性の記述を確認することはできなかった。それらのうち鹿島の1999年3月期の連結財務諸表に係る会計方針の注記は、同社が採用した日本基準とIAS の差異を説明した上で、その財務諸表が日本以外の国で認められる会計原則に準拠した表示を行うよう意図してはいない旨を明示している点で興味深い。
 今度は逆に、東京証券取引所に上場する外国企業のアニュアル・レポートを見てみよう。IASCの上記のホームページによれば、東証は自国または他国での上場目的にIAS 準拠の財務諸表を作成するか、大蔵省の承認があれば、IAS に準拠した財務諸表を東証でも利用できるものとし、スイス企業の実例があるという。そこで東証上場のスイス企業3社を調べてみたところ、ネスレとUBS の財務諸表の注記が確かにその旨を明記していた。
 スイスやドイツにはIAS 準拠企業が多く、中国も激増中であることに比べれば、日本企業の意識はまだまだ低い。しかし日本でも「国際会計教育協会」という国際会計教育の促進を目的とする組織が活動を始めた。これを契機として、日本の企業会計実務がグローバル水準へ到達するのを見守りたい。
(執筆者:桜井久勝)



IAS 使用企業リスト
http://www.iasc.org.uk/frame/cen1 7.htm

アニュアル・レポートに掲載する財務諸表の作成に際してIAS に準拠したことに言及している企業として、IAS 事務局の調査を経て識別された世界58の国と地域の延べ961社の固有名詞が列挙されており、日本企業も10社が含まれている。

IAS 準拠の財務諸表を認める証券取引所リスト
http://www.iasc.org.uk/frame/cen1 10.htm

世界51か国の証券取引所のそれぞれについて、外国企業がその証券市場で資金調達を行おうとする場合に、IAS に準拠して作成された財務諸表を使用することを認める程度や条件について要約している。

英文アニュアル・レポート(データベース)
http://www.carol.co.uk/

アジア、ヨーロッパ、アメリカに区分して、各社のアニュアル・レポートを収録しており、所属する業種と社名のアルファベットで検索できる。アジアの区分には多数の日本企業が含まれており、簡単に印刷もできる。

日本企業の英文アニュアル・レポート
http://www.gcis.com/

日本企業約200社が作成した英文のアニュアル・レポートを、所属業種と社名のアルファベットで検索することができる。日本企業だけでなく、日本で著名なアメリカ企業約70社のアニュアル・レポートも別途に収録されており、閲覧することができる。

IAS への準拠を明示した富士通
http://www.fujitsu.co.jp/hypertext/Aboutfujitsu/annual98/

富士通は1998年の連結財務諸表の会計方針の注記の冒頭で、採用した会計原則が、所定項目を除きIAS に合致している旨を明示している。しかし1999年からはIAS との相違点と調整情報を提供する方式に変更されている。

IAS との差異を明示する鹿島
http://www.kajima.co.jp/ir/annual/1999/

鹿島の連結財務諸表の注記は、日本以外の国で一般に認められた会計原則に準拠して財政状態や経営成績およびキャッシュ・フローを表示するようには意図されていないと明記したうえで、IAS との相違点を別途に説明している。

IAS 準拠の財務諸表で東証へ上場するスイス企業
http://www.ubs.com/e/index/about/invrel.html

UBS 社は、連結財務諸表の注記として掲記する会計方針の冒頭で、IAS に準拠してこれを作成した旨を述べている。ネスレの連結財務諸表の注記(http://www.nestle.com/investorrelations/halfyearly/annex.html )も同様である。

国際会計教育協会
http://www.kokusaikaikei.com

協会の趣旨と概要のほか、主催する国際会計テストと英文会計テストの実施要領や出題範囲などの情報が提供されている。